関東大震災朝鮮人虐殺から100年を迎える今  ヘイトの暴力は“ジェノサイド”にまで至ってしまうのか - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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関東大震災朝鮮人虐殺から100年を迎える今  ヘイトの暴力は“ジェノサイド”にまで至ってしまうのか

【投稿日】2022年11月29日(火)

 来年(2023年)は、関東大震災時における朝鮮人虐殺事件が発生し、100年の節目の年を迎える。すでに多くの研究や調査によって、日本市民の自警団だけでなく、警察や軍隊も虐殺にかかわったことが明らかになっているが、日本は国家として実態調査や被害者への謝罪・補償を国連からも再三指摘されているにもかかわらず未だに行っていない。
 それどころか、当時の報道を都合よく切りとり、「虐殺などなかった」と主張する研究者やそれに便乗する政治家、ジャーナリスト、排外主義団体などが、フェイクをまき散らしている状況である。
 その代表的なのが、東京都の小池百合子知事だ。彼女は歴代都知事が送っていた朝鮮人犠牲者慰霊祭へのメッセージをストップした。そして慰霊祭当日、その周辺でヘイトデマをまきちらす排外主義団体を容認し続けている。
 そしてついには、行政が検閲に入るというとんでもない事件を発生させた。東京都人権プラザで開催されている美術作家の飯山由貴さんの企画展で、附帯事業として飯山さんが制作した映像作品の上映とトークが予定されていたが、その映像作品に朝鮮人虐殺にかんする内容があるとして、東京都人権部がその上映を禁止した。東京都人権部は「都知事がこうした立場(追悼メッセージを出さない)をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用する事に懸念があ」ると、人権プラザ職員にメールで指示したことがわかっている。
 一方、群馬県では県営公園内に設置されていた強制連行などによる朝鮮人犠牲者の碑の撤去が決定された。
 関東大震災時における朝鮮人虐殺事件が発生して、100年を迎えようとしている今、このように官民が一体となってそれを否定しようと躍起になっていることと、昨今のヘイトクライムが、ついに“ジェノサイド”(集団的・制度的な民族の抹殺、精神的危害も含む)の域にさしかかろうとしていることと無関係ではない。
 アメリカの反人種差別団体-Anti-defamation Leagueが作成し、学校教育現場で使われることも多い「ヘイト(憎悪)のピラミッド」というのがある。冗談やうわさが、放置していると偏見による行為となり、体系的な差別や偏見による暴力・殺人へとエスカレートしていく人種差別の構造を分かりやすく図示した教材で、その頂点にあるのが、ジェノサイドである。昨今は、上から2番目の“暴力行為”が頻発している状況であるといえる。
 昨年、京都府宇治市の在日コリアン集住地域ウトロで、人種差別的動機による放火事件が発生した。同人物は、愛知県名古屋市の韓国民団愛知県本部と隣接する名古屋韓国学校にも放火した。犯人は、ヤフーニュースの書き込みやインターネット情報から、在日コリアンや韓国に対する敵対感情を持ち、「在日コリアンらに恐怖感を与え、追い出す狙いがあった」とその動機を語っている。同年12月、大阪府東大阪市にある韓国民団枚岡支部に何ものかによってハンマーが投げ込まれ、正面ガラスが破壊された。2022年8月、川崎駅前で繰り返されているヘイト街宣への常連参加者が、刃渡り20センチ以上の鋭い包丁を3本持った写真に「武装なう」と文言をつけてツイッターに投稿した。同年4月、大阪府茨木市にあるコリア国際学園が放火された。容疑者は「嫌がらせをすれば日本から去って行くと思った」と述べた。
 さらに、朝鮮民主主義人民共和国による「ミサイル」発射を契機に、ヘイトクライムが続出している。SNSは「朝鮮人を迫害せよ」「強制送還」「在日朝鮮人を人柱に吊るし晒しておけ」などの書き込みにあふれ、東京をはじめ全国6つの朝鮮学校で11件の暴行・暴言事件が報告された。9月には、東京都のJR赤羽駅で「朝鮮人コロス会」との差別落書きを通学中の朝鮮学校生徒が発見。10月、群馬県のJR新町駅に隣接トイレにも「在日かんこく人を殺す会」「ヤレ ヤルンダ おまえ達」との差別落書きが在日コリアン男性によって発見された。そして、同月、世界的なジャグリングパフォーマ-として有名なちゃんへん.さんが、路上で「北チョン」と差別語を投げかけられ、集団暴行を受けた。把握できていないだけで、まだまだヘイトクライムは起きているだろう。
 関東大震災時における朝鮮人虐殺事件100年を迎えようとしている今、ヘイトクライムが頻発し、東京都や群馬県のなどの行政が強権を振るって、都合の悪い歴史を修正、抹殺しようとする状況が強化されているのは単なる偶然とは思えない。このまま放置していれば100年を迎えて、「ヘイト(憎悪)のピラミッド」がとうとう“ジェノサイド”にまで到達した状況になってしまうのではないかと懸念する。歴史が形を変えて繰り返されようとしている。そうならないためにも、来年の100年はとても重要な1年となりそうだ。KMJも関連企画を計画し、歴史が繰り返されないように全力でその役割を果たしていきたいと思う。(高敬一)