「食の安全」を主張する極右政党にどう向き合うか 高井 弘之 - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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「食の安全」を主張する極右政党にどう向き合うか 高井 弘之

【投稿日】2023年2月13日(月)

新興極右政党の台頭

 数年前から日米による「中国への攻撃軍事態勢」構築が急ピッチで進められる中、政府は、主観的・感情的なものに過ぎない「中国脅威論」を追い風に、そのための軍備拡大・増税計画を昨年(2022年)末、閣議決定した。
 中国や朝鮮への敵視・憎悪をその基調に持つ日本の右翼・排外主義勢力は、日本の侵略・植民地支配を認め、謝罪する1990年代前半の日本の社会・政治の動きに危機感を募らせ、その後半、巻き返しを始めた。やがて、その政治勢力は、日本社会に強い影響力を持ち始め、いまや、日本国家の中枢を占拠している。
 2000年代後半からは、街頭で公然とヘイトスピーチを行う「在日特権を許さない市民の会」などの新たな極右・排外主義団体が登場し、数年前からは、新興の極右政党が組織され始めた。
 昨年7月の参院選の全国比例区得票率は、参政党3.3%、NHK党2.4%、それらに、日本第一党、ごぼう、幸福実現党、新党くにもり、維新政党・新風ら他の極右政党の得票率を合わせれば約6.8パーセント。そして、この二十数年の間にほぼ極右政党化した自民党34.4%、維新14.8%である。以上に、自民党の連立与党・公明党を加えた得票率は67.7パーセントであり、共産・れいわ・社民の合計は13.6%である。すでに日本は、極右政党が政治の前面にせり出してきている社会なのである。
 この現実にどう向き合うか。ここでは、当参院選で初登場し、急スピードで支持を拡大して一議席を獲得した参政党や日本第一党が「食の安全」を掲げている問題に向き合ってみたい。

参政党における「食の安全」と排外主義

 【第一次産業(農林水産業)を保護し、国民生活の安全を保障します。/遺伝子組み換えの輸入品から「食の安全」を守ります。】――この主張に反対の人はあまりいないのではないだろうか。 
 実は、これは、日本第一党が参院選時に掲げた政策・公約である。同党は、在日朝鮮人に対する差別・迫害を扇動・実行して来た上記「在特会」設立者であり、街頭で「朝鮮人を皆殺しにしろー!」などと叫んで来た桜井誠を党首とする党である。同党は、公約にも次のような主張を掲げている。
――【「外国人移民政策」は即時廃止/ヘイトスピーチ解消法を廃止/国防費GDP比3%以上】。
 では、以下はどうだろうか。――【化学的な物質に依存しない食と医療の実現と、それを支える循環型の環境の追求/農薬や肥料、化学薬品を使わない農業と漁業の推進と食品表示法の見直し/国民に健康と食の価値、元気な超高齢社会で“安心できる生活づくり”】
 こちらは参政党の参院選時の政策・公約である。やはり、同党も、同時に次のような排外的主張を掲げている。――『日本の舵取りに外国勢力が関与できない体制づくり/外国資本による企業買収や土地買収が困難になる法律の制定/外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない。』
 さらに、同党共同代表らは当選挙演説(東京・芝公園/2022年7月9日)において、「敵は国内ではない、グローバル勢力!」(松田学)「グローバル勢力に利権を取られている政党か、そうでない国民のためのナショナリズム政党か!」(赤尾由美)と主張した。日本の経済・政治などの状況が悪いのは、すべて「グローバル勢力」、つまり、「外国のせい」というような主張を展開している。
 つまり彼らは、「日本対外国勢力」という排外的構図の土俵で「現実」を捉え、「食の安全」にしても、「日本人だけの食の安全」を要求しているのである。それは、同党事務局長・神谷宗幣氏が同じく芝公園で発した次の言葉に明瞭である。
 「日本人は何を食べさせられているのか。どれだけの化学薬品を我々の体に入れているのか。どんどん日本人の体を駄目にして、自公政権は何をやっているのか。」 このような、自民族中心・排外主義と「食の安全・健康」志向が結びついたときの恐ろしさをナチスドイツの政策に見てみたい。

「食の安全・健康・有機農業」とナチズム -生物圏平等主義とレイシズム-

 ナチスは約560万のユダヤ人を「絶滅収容所」で殺害した。ドイツ民族の安全を害する危険で有害な存在と見なしたからである。
 一方、ナチスはドイツ民族の健康とそのための「食の安全」を精力的に追求した。発ガン性の農薬や食品着色料を規制し、食品の虚偽広告を排斥した。環境問題にも取り組み、自然との共生、「生物圏平等主義」を目指した。多くの強制収容所には農場が併設され、囚人を使っての有機農業が行われた。その役割を、アウシュビッツの所長は次のように述べている。
「目標はドイツ民族の健康に害を与える外国産の香辛料と人造薬品の使用を禁止し、無害で味の良いドイツ産香辛料と自然の薬草へと移行させることだ」(ルードルフ・ホェス)
 むろん、参政党がいま、ナチスのような政策プランを持っていると言っているわけではない。しかし、
「健康・食の安全・有機農業」を掲げても、それが、「日本人だけの安全」と「外国人への差別・排斥」を前提とするとき、それは、本質的にナチスの姿勢・思想と通底する。
 ナチスが、ドイツ人個々人ではなく「全体」としてのドイツ民族の安全を追求したことと、参政党が「日本人」というとき、それが尊厳ある個人としてのひとりひとりの日本人ではなく「全体」としてのそれであることも共通している。ナショナリズムもファシズムも、個人は全体の手段・コマであり、民族全体こそが至上の価値なのである。

「人間社会の在り方」への視座

 有機農業・オーガニック・食の安全等、「人間と自然の関係の在り方」で規定されてくるような課題に向き合うとき、それを主張している人・団体・政党は「人間と人間の関係としての社会の在り方」については、どのような視座・姿勢を持っているのかを確かめなければならない。
 出自や国籍などに関係なく誰もが平等に尊重され差別されずに生きていける社会、国家ではなく個人の尊厳が保障される社会、軍事ではなく対話・外交・平和が尊重される社会、すべての人の人権が保障され共に生きていける社会、このような社会を目指しているのか、そうではないのか。私たちは見極めなければならない。
(愛媛県の市民団体「市民の広場」に掲載された文書を高井さんの許可を得て転載させていただきました。)