【投稿日】2024年8月6日(火)
東京都新宿区・大久保にあるイタリアンバルの店主が、7月5日、Xに「多様性とか寛容とか色々言われている昨今ですが嫌な思いをして働く気はないので中国人、韓国人お断りします」と注意書きされた店の扉の写真をアップし、「金使わないで態度悪いと普通に出禁になるよ 今日来た韓国人は2回目なのでアウト~」とつづった。同店の投稿は、29日までに約2500万回閲覧され、SNS上で賛否両論の物議を醸しているのだが、議論するまでもなく明らかな民族差別である。
新宿区・大久保はコリアタウンをはじめ、昨今では様々な国の店舗が立ち並び、国際色豊かな街として観光客にも人気のスポットだ。区の人口も約13%を外国籍者が占める。そんな街での民族差別行為であったため、余計に注目されたのであろう。
かつてのコロナ禍においては、「中国人お断り」の掲示が各地で相次いだ。得体のしれないウイルスの脅威と中国「武漢ウイルス」という誤った情報があいまって、根底にあった中国人への偏見を助長した結果だった。LINE証券・野村ホールディングス、SBIネオモバイル証券・SBI証券が、口座開設時に外国籍者を一律排除した件も、その根底には外国人にたいする根強い偏見が背景にあった。
この投稿にたいして、芸能人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が29日までにXで、「この店は客の話ではなく人種の話にしてる、客の話ならば迷惑客お断りにしたらいい。しかしこの店は韓国、中国人と書いてる」と指摘。「礼儀正しい韓国、中国人がこれをみて不安な気持ちになってると思うと胸が痛い。これが韓国でニュースになった。いま韓国に住む日本人が肩身の狭い思いを」とつづり、「憎悪の連鎖を作るカス」と批判した。
表現はともかく適切な指摘だ。迷惑な客を出入り禁止にすればいいのであって、一律に「韓国人」「中国人」とする必要はない。店主の思考にある「韓国人」「中国人」は迷惑行為をする人種であるとの偏見・差別意識がトラブルをきっかけに表面化したのであろう。
法的にも違法である。杉山大介弁護士によると、「これまでも、入店を拒否した宝石店や公衆浴場、ゴルフクラブの入会、賃貸借(物件)の入居、中古車の資料請求などを拒否した企業等に対して、不法行為に基づく損害賠償が認められてい」るとする。憲法14条から人種に基づく差別の禁止が導かれ、さらに日本は「人種差別撤廃条約」に批准していることが法的根拠となる。こうした憲法や条約の趣旨によって、国籍や人種を理由にした入店等の拒否は、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した」として、不法行為による損害賠償(民法709条)が認められる。過去、同様のケースを裁判で闘ったことによってこのような判例ができあがったのである。
この問題を取材している週刊誌『フラッシュ』(光文社)が、新宿区総務課に見解を聞いたところ、「ヘイトスピーチにあたるかどうかは判断することは難しい。ただし、『人種差別撤廃条約』の人種差別にあたると考える」とし、担当者が実際に掲示の確認のため店舗を訪問したようだが、その時は掲示されていなかったが、今後、掲示が確認されれば、取り下げ要請はするが強制性はない、と回答したようだ。最低限の対応はしているが、やはり行政は、店主と面会し、本件の問題性を認識させ、厳しく指導すべきだ。そうしていなかければ、いつまでもこのような民族差別は解消されないだろう。(高敬一)