【投稿日】2014年11月10日(月)
「お前な」「お前って言うなよ!」「うるせえ、お前、お前だよ」――。冒頭からまるで子どもの喧嘩。「帰れ!」「お前、ここ大阪市役所だぞ。お前が帰れ」「お前が呼んだんだよ!」とののしり合い、10月20日に行われた橋下大阪市長と桜井在特会会長の意見交換会は終わった。翌日、大阪市には多数の抗議の電話やメールが届いたようだが、橋下氏は翌日の会見で「ヘイトスピーチはやめてもらえると思います」と成果を語った。一方の桜井氏は「一体どちらの失うものが大きかったかどんなアホでもわかると思います」と勝利宣言とも取れるツイートを投稿した。さらに今回の討論で注目されたせいか、著書の「大嫌韓時代」がネット通販大手アマゾンの書籍ランキングで1位になったと喜んでいるそうだ。
こんな茶番劇はどうでもよいのだが、橋下氏は21日の会見で特別永住資格について「どこかの時点で、通常の外国人と同じような永住者制度に一本化していくことが必要になる」。「特別扱いは差別を生む」とし、在日コリアンへの攻撃を抑える狙いもあると述べた。なるほど、最初から仕組まれていたのか、と勘ぐりたくもなる。橋下氏と桜井氏は、大阪のイメージを悪くする「ヘイトスピーチ」を止めさせる条件で「特別永住」見直しの言質を与えることを事前に取り引きでもしていたのだろう。あの茶番劇はあえて対立構造を強調したに過ぎない、といえば勘ぐりすぎだろうか。
しかしあえて確認しておきたいのは、「特別永住資格」は退去強制の対象になりうるなど、「権利」とは程遠い、単なる在留資格の一つにすぎない、ということだ。「特別」という言葉になんらかの「特権」があるかのようなイメージだけが先行しているのである。そして重要なのは、それが日本政府の排外とご都合主義によって、旧植民地出身者である在日の問題を先送りし、不安定な在留資格におき、市民権を剥奪し、戦後補償やあらゆる社会保障制度から排除し、さまざまな民族差別を放置してきた結果の上にあるということを忘れてはならない。つまり極端な言い方をすれば「特別永住資格」は在日がもつ日本社会にたいする「債権」なのである。
橋下氏は「特別永住者制度っていうのは、もうそろそろやっぱり終息に向かわなきゃいけないと思ってる」という。その通りである。日本政府が、在日に対する戦後補償を行い、戦後の排外政策を反省し、在日の市民権を剥奪してきた損害について賠償し、民族差別のない社会を創設するという「債務」整理をしてはじめて、「特別永住資格」という「債権」を回収できるのである。橋下さん、そこのところよろしく。今度は私たちと意見交換会しませんか?(K)