【投稿日】2016年9月13日(火)
8月に行われた東京都知事選挙では、予想通り、というべきか、小池候補が圧勝をおさめた。反戦と護憲を訴えた鳥越候補は3位に甘んじた。そのことの評価はすでにマスコミその他でいろいろ評価されているので、ここでは触れない。問題は元在特会の会長である桜井誠候補が11万票余を獲得したことに私は驚きとともに愕然とした。11万票といえば、東京都の有権者の1パーセントを越える数字ではないか。なんと東京都民の0.1割以上が桜井の表明している立場、見解に共鳴しているということである。
驚くことはない、という人もいるだろう。なにせ、かつては石原慎太郎は驚異的な得票率で当選したし、また田母神候補が60万票も獲得した例も記憶に新しい。しかしこの二人は恐らく「日本会議」などの団体が組織をあげて支援したであろう。また石原候補についてはその長い政治家歴や作家としての知名度、それに人気絶頂だった弟の俳優の兄という来歴になんとはなしの親近感もあったかもしれない。
しかし今回の桜井候補はおそらく、組織的な支援団体はきわめて少なかっただろう。とすれば、有権者は、彼の街頭演説やネットなどを駆使したその主張、テレビでの演説などによってこの人物に票を投じたとしか思えない。
ということは、彼が今でも、そしてこの選挙期間中も喋りまくった在日コリアンに対する罵詈雑言、事実を曲解した言説が都民の0.1割に支持されている、ということになる。とりわけ彼の言う在日の社会保障制度による給付などに係わる無知蒙昧な見解が都民に浸透してしまっている、ということだ。それを梃子として在日コリアンが日本社会にとって、有害な存在である、という言説がまことしやかに横行することになる。いやその現象はすでに日本中にまきちらされているのだが、首都の知事選挙候補が日本の公の選挙中に訴える、ということで、その嘘八百がひとつの公式な見解として通用していることになる。
このことは第一次大戦後のドイツでナチスが展開した情報戦と酷似している。ナチスはあらゆる情報機関を通じて、またワイマール憲法のもとでの選挙戦で排外主義と人種主義をばらまき、議会の多数派を獲得して政権の座についたのだ。そしてあのユダヤ人差別を梃子として、あらゆる反対派を打倒し、第二次世界大戦の開戦に到る。
現在、EU諸国やアメリカでも右翼的勢力が台頭しつつある。少しずつの違いはあるにせよ、その言説の根底には人種差別と排外主義が基盤に据えられていることは見ての通りである。日本ではようやく不十分な「ヘイトスピーチ禁止法」が成立したが、その実効性はきわめて薄い、とされている。では、どうすればこの流れ、差別と偏見をまきちらす勢力と対峙していけるのか。有権者である日本人は被害の当事者たる在日コリアンに思いを馳せ、深刻な課題を背負っているのだ、という自覚から出発すべきであろう。世界中の資本主義社会が危機的な状況にあるなかで、戦争とジェノサイド(集団殺戮)に到る道をくいとめる道を私たちは真剣に実践しなければならない。(仲尾宏)