【投稿日】2016年11月4日(金)
先月、あいついで様々な形態の差別事件が報じられた。それも情けないことにすべて大阪(大阪関係)でのことである。もっとも各地でも頻発しているが、公になっていないだけなのかもしれない。公になるだけまし?とも言えるのか。いずれにしても大阪は“かつて”は解放教育に代表される人権教育の先進地であった。この表現が過去形になっていることと、自省を込めて運動団体の弱体化が今回の差別事件とは無関係ではないと考える。さて、先に今回の差別事件を振り返ってみることにする。
「わさびテロ事件」に隠された差別発言
まずは大阪・難波の寿司店「市場ずし」で、店員が韓国人観光客にわさびを大量に盛るなどの嫌がらせをしたという事件。当事者からの指摘がネット上で相次ぎ、メディアでも取り上げられ、市場ずしを運営する「藤井食品」は10月2日、公式サイトで釈明した。それによると、わさびを「増量」して提供したのは、外国人客からの要望が多いため、事前確認せずにサービスとして提供してしまったこと、また民族差別的発言は確認できなかった、とした。報道では「わさび」の件ばかりが取り上げられたのだが、もっとも重要なのは店長が韓国人客が入店した際に「チョンが来た」との差別発言をし、韓国人客がクレームを言うと、日本語がわからないふりをして「チョン」と言い続けていたという点である。会社側は「確認できなかった」としている。 しかし当事者は明らかに差別発言を受けているのであり、会社側は真摯に受けとめ本気で調査する必要があった。しかしそのような対応はせず、メディアもその点はスルーした。なおこの事件は韓国では「わさびテロ」と呼ばれている。
暴行事件まで発生
次も大阪・難波でのこと。大阪の有名観光スポットである道頓堀で、韓国人観光客の男子中学生が暴行を受けたとして被害を訴え、大阪の韓国総領事館が他の観光客に注意を呼びかけ、大阪府警に対策を要請するなどの騒ぎになった。被害を訴えた少年(13)は、10月6日の夜に父親ら家族と道頓堀を歩いていたが「20代とみられる男に、いきなり腹を蹴られた」ようだ。男はそのまま逃走。日本語のできない少年と家族は、翌日、領事と面会して被害を報告し、帰国したという。直接的な暴行事件まで発生している。
差別アナウンス
南海電鉄は大阪・難波と和歌山をむすぶ私鉄。関西空港に乗り入れしていることから、多くの外国人観光客も利用している。その南海電鉄の40代男性車掌が10月10日、「本日は外国人のお客さまが多く乗車し、ご不便をお掛けしております」との車内アナウンスを行った。外国人観光客のスーツケースが邪魔だとの乗客のクレームをうけてのことだそうだ。乗客の女性が関空駅に到着後、「社内のルールに定められた内容の放送なのか」と駅員に問い合わせたことから発覚した。その後電鉄側は車掌に対して「客を区別するのは不適切」として口頭で注意。車掌は「差別の意図はなかった」と釈明したという。同社は「日本人でも外国人でも、お客さまに変わりはない。区別するような言葉はふさわしくない」と回答した。「区別」ではなく明らかに「差別」なのだが。
民族差別語が氾濫
4月19日に大阪・梅田の阪急バスの乗車券販売窓口で、ある韓国人観光客有馬温泉行きバスの乗車券を購入する際、窓口担当の従業員に名前を尋ねられて英語で「キム」と答えたところ、名前欄に「キム」とともに「チョン」と印字された乗車券を発券されたとして問題となっている。その観光客は切符の写真をソーシャルメディアに投稿、それを見た別の韓国人が「朝鮮人を蔑視する表現だ」と韓国のYTNに情報提供したという。YTNは「『わさびテロ』騒動に続き、日本語がよく分からない韓国人観光客に対する『韓国人を卑下するバス乗車券表記』に、嫌韓だという批判が強まるとみられる」と伝えている。
阪急バスは、5月に国土交通省近畿運輸局から指摘があって把握。しかし10月まで放置していた。メディアで話題になりようやくこの乗車券を発行した従業員に確認したところ「覚えていない」と話したという。従業員は自分が打ち込んだ言葉が差別用語にあたると認識しておらず、聞き取り調査で意味を聞かされて驚いたという。では、この従業員はどこで「チョン」という表現を知ったのだろうか。考えられるのはインターネットだ。嫌韓サイトを見れば、韓国人を貶める表現として「チョン」という言葉が氾濫している。ヘイトデモでも大声で叫ばれている。この表現がどのような意味で使われているのか、知らないということはないはずだ。
会社側は「知らなかったこと自体が問題であり、単語の意味や背景、具体例まで踏み込んで、グループ全体の研修を考え直さなければいけないと考えています。会社として差別はあってはならないことと考えており、差別表現となったことは、おわびするしかありません」とした。また、5月に把握していながら対応を放置していたことについては「認識が甘かったとしか言いようがない。社内の情報共有が不十分でした」と陳謝したようだ。
沖縄ヘイトの極み 「土人」発言の背景にあるもの
10月18日、沖縄県東村の米軍北部訓練場ヘリパッド移設工事の警備にあたっていた大阪府警の巡査部長が、建設反対派として抗議運動を行っていた芥川賞作家・目取真俊氏に対し、「どこつかんどんじゃ、ぼけ。土人が」と暴言、別の巡査長も近くで「黙れ、こら、シナ人」と暴言を吐いていたことがわかった。大阪府警は同月21日に、「軽率で不適切な発言で、警察の信用を失墜させた」として共に戒告の懲戒処分にしたと発表した。この巡査部長は「(抗議する人が)体に泥をつけているのを見たことがあり、とっさに口をついて出た」、巡査長は「過去に(抗議する人に対して)『シナ人』と発言する人がいて、つい使ってしまった」と説明。2人とも「侮蔑的な意味があるとは知らなかった」と話している。
さすがにあの菅義偉官房長官も慌てて「許すまじきこと」とコメント。金田勝年法務大臣も有田芳生議員の追及により差別発言であることを認めた。
しかし一方で、大阪府の松井知事は同月19日に、自身のツイッターで〈表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様。〉と投稿、さらに翌20日には、報道各社からの取材に対し「もともと混乱地で、無用な衝突を避けるために、警察官が全国から動員されている。混乱を引き起こしているのはどちらなんですか」と、今度は反対派市民を非難した。差別発言を肯定し、「どっちもどっち」という印象を植え付けたいようだ。
普通なら完全に辞職ものだが、残念ながら大阪ではそうはならない。インターネットサイトの「リテラ」によると、その背景には松井知事を糾弾すべき大阪のマスコミの多くが日本維新の会や松井知事の応援団と化しており、テレビ番組のなかには、松井知事と同じような沖縄ヘイト肯定や沖縄へのデマ攻撃を垂れ流す番組があるからだと指摘している。その代表的なのが『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)。『委員会』では、これまで何度も沖縄の米軍基地問題を取り上げ、そのたびに沖縄への偏見を隠そうともせず、同時に基地反対運動を根拠もなく貶めてきた。「リテラ」では、2013年11月3日の放送番組を例に挙げ、沖縄出身のジャーナリストであり元海上自衛隊の恵隆之介氏が「沖縄県だけの暇人たちが反基地運動をしてるというような油断はしないほうがいい。そこには巧みに北京、あるいは平壌、ソウルの左巻きたちが入ってきているのは事実」とデマ発言をし、誰もそれを否定することなく、沖縄ヘイトをまき散らしているそうだ。また、産経新聞も松井知事のインタビュー記事を掲載し、「土人」発言の背景には反対派の過激な発言があると、擁護させている。このような沖縄に対する差別・偏見は大阪に限らず日本全国に蔓延しているのではないだろうか。
「リテラ」は警察組織の中では、こうした沖縄差別、外国人差別は日常化しており、今回の一件はそれがたまたま露呈したにすぎない、と指摘する。公安関係の記者の話によると「警察組織内部、とくに警備や公安の間で、沖縄の基地反対派への差別的な悪口がかわされるのは、けっして珍しい話じゃない。彼らは、基地反対派にかぎらず、共産党、解放同盟、朝鮮総連、さらには在日外国人などに対しても、聞くに堪えないような侮蔑語を平気で口にする」「これにはもちろん理由があって、警察では内部の研修や勉強会、上司からの訓示など、さまざまな機会を通じて、警察官に市民運動やマイノリティの団体、在日外国人などを『社会の敵』とみなす教育が徹底的に行われている」という。
1994年、国連で「人権教育のための国連10年」が決議された。その理念に基づき、日本でも最終年(2004年)までに「人権という普遍的文化の確立」という目標に向けて各自治体において「行動計画」が策定され、実行された。そこで特に重要視されたのが、公務員、教職員、警察職員、医療・保健関係者、福祉関係者等への人権教育であった。それらの職員は、「人権が尊重される社会の実現に深く関わる職務を担っているため、それぞれの職務の遂行に当たっては、常に人権意識をもって臨むことが不可欠であり、特に管理者ほどその姿勢が求められる。また、豊かな人権感覚を持つことにより、全ての施策に人権の視点を組み込むことができる」ため、重要視されたのである。大阪府でも当然、行動計画が立てられ、実行されたが、10年経って、すっかり形骸化してしまった。
人権教育の再生と運動体の連携を!!
とはいえ、そのような行動計画が立てられ、実行されたことは評価できるし、その背景には運動体の強力なプッシュもあった。しかし、いまはどうか。
【沖縄の人や外国人は自分たちよりも劣った「土人」「チョン」「シナ人」なのだから何をしても許される。】
大阪に限らず日本社会ではこのような差別意識が蔓延し、それらを肯定する政治家、評論家、ジャーナリストが何のペナルティーも無く、逆に評価を得ている。その結果が、ヘイトデモ・ヘイトスピーチであり、数々の差別事件の背景にある。こうなってしまったのには、昨今の日本社会を座巻きする排外的ナショナリズムの台頭があるが、やはり人権教育の大きな後退は看過できない。そしてそれらを監視してきた運動団体の弱体化にある。
改めて私たちは自省の意味も込めて、人権教育・啓発の再生と運動体の連携強化に取り組んでいかなければならない。(高敬一)