外国人差別で初の実態調査 その背景にあるもの - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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外国人差別で初の実態調査 その背景にあるもの

【投稿日】2017年5月29日(月)

 在日外国人を対象とした差別被害などに関する実態調査の結果が、3月31日に公表された。調査は、法務省が公益財団法人人権教育啓発推進センターに委託。外国人居住者の多い16都道府県の37市区に住む18歳以上の1万8500人を対象に、昨年11月から12月にかけて調査票を郵送、全体の23%にあたる4253人から回答を得た。回答者の国籍・地域別では中国が最も多く、33%、次いで韓国が22%、フィリピン7%などとなっている。

 過去5年間に外国人であることを理由に差別的なことを言われた経験が「よくある」「たまにある」と答えた人は合わせて29.8%。誰に言われたかを複数回答で尋ねたところ、「見知らぬ人」が53.3%と最も多く、「職場の上司や同僚・部下、取引先」が38%、「近隣の住民」が19.3%と続いた。ヘイトスピーチ(憎悪表現)を伴うデモや街宣活動を見聞きした人の受け止め(複数回答)は、「不快に感じた」が39.2%、「なぜそのようなことをするのか不思議に感じた」が28.4%、「日本人や日本社会に対する見方が悪くなった」が15.9%の順となった。このほか、外国人であることを理由として、住宅への入居を断られた(39.3%)、就職を断られた(25%)、同じ仕事をしている日本人より賃金が低かった(19.6%)、「外国人を理由に昇進できない不利益を受けた」(17%)といった実態が明らかになった。このような差別を受けて家族や知人、国や自治体の窓口などに「相談したことがある」と答えたのが11%であった。

 在日外国人の差別実態を対象とした調査は、これまで自治体レベルでは行われてきたが、国が実施したのは今回が初めて。2016年に法務省は、「ヘイトスピーチに関する実態調査」を行ったが、「目の前」の課題であるヘイトスピーチの実態を国が暫定的に把握するという意味合いが強かった。

 これに対して今回の調査は、入居差別や就職差別も含めた外国人差別全体について包括的な把握を試みるものだ。社会学者の明戸隆浩氏は『ヘイトスピーチという「目の前」の問題への取り組みから外国人に対する差別全体への取り組みへと「前進」したこと、しかもそれが国の主導によって行われたこと、このことの意味はきわめて大きい』と評価している。

 しかし、何かもやもやするのは、国がなぜ今、この調査を行ったのか、だ。調査の目的は次の通り。①近年、日本に入国する外国人の数が増加している。
②言葉、文化の違いによって様々な人権問題が発生している。③今後、法務省の人権擁護の取り組みを充実させるため、外国人をめぐる人権状況を把握する。
 逆に聞いてみたい。なぜこれまで行わなかったのか。過去には在日外国人の人権問題はなかったのか、と。
 そう、今回の調査の対象者は、旧植民地出身者とその子孫である在日コリアン(以下、「在日」とする)というよりは、それ以外の外国人なのである。質問項目に「本名・通名」の使用を聞くものがないことからも明らかだ。だから実施されたと考えられる。
 日本はこれまで国連からさんざん「在日外国人差別」(人種差別)問題解消のための積極的な方策を求められてきたが、ほとんど無視してきた。その背景には、日本における在日外国人差別の課題の多くが、「在日」の人権問題であったからだ。「在日」の人権問題には、戦前・戦後の日本国自身による同化と排外政策、そして戦後補償問題などが絡んでくるので極力避けられてきたのである。

 「在日」の人権問題については無視をしてきた国が、今になってこのような実態調査に取り組んだ背景には、①「在日」がますます見えにくい存在になっていること②見える存在としての外国人の増加により、日本の歴史問題や戦後補償問題を気にする必要がなくなったこと、が考えられる。そして、両者を一緒くたにすることで、「在日」問題をますます見えにくくし、ややもすればなかったことにしようとしているのではないかと考える。

 しかし、見えにくい存在になったとはいえ、「在日」は存在するのであり、民族差別はある。そしていうまでもなく、「在日」とそれ以外の外国人は、その歴史的背景や生活環境が違うことから、課題も違い、施策も違ってくるのである。したがって同じ外国人として「在日」を扱うことは「在日」特有の問題を見えにくくすることになるので、賛同できない。
 とはいえせっかく行われた実態調査である。これを有意義に活用するために以下について提言したい。

①「在日」特有の問題があることを意識して、分析 をし直す。

 質問で国籍・地域名、在留資格、「生まれた場所」を聞いているので、すべてをカバーできないが、せめてそれらをの回答をピックアップし、「在日」特有の問題を明らかにする。

②「外国人人権基本法」(案)成立への足がかりと する。

 「ヘイトスピーチ解消法」がその実態調査を「法律事実」として成立したことから、この実態調査を「法律事実」とし、「外国人人権基本法」(案)成立にむけた足がかりにする。

 在日外国人問題の原点は「在日」である。それを無視しての在日外国人施策などはありえず、いずれ形骸化するであろう。そうならないためにも、我々ももっと声を上げていかねばならない。(高敬一)