「レイシャル・ハラスメント」としての捉えなおしを - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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「レイシャル・ハラスメント」としての捉えなおしを

【投稿日】2018年5月21日(月)

 最近「レイシャル・ハラスメント」(人種的嫌がらせ)という言葉がよく聞かれるようになった。1980年代後半くらいから「セクシャル・ハラスメント」(性的嫌がらせ)が日本社会で認知されはじめ、1997年の男女雇用機会均等法の改正により「セクハラ規定」が設けられ、「セクシャル・ハラスメント」の定義が確立された。以降、職場や学校を始め様々なコミュニティ内で潜在化していた各種「ハラスメント」が、「セクハラ」が認知されることをきっかけに表面化してきた。そして、現在「パワー・ハラスメント」「アルコール・ハラスメント」など30以上の「ハラスメント」が一般的に認められている。「レイシャル・ハラスメント」(以下、「レイハラ」)もその一つということだ。

 「レイハラ」は一般的に次のように定義されている。【特定の人種、民族、国籍をもとに、相手を不快や不安な状態にさせる不適切な言動や行為。侮蔑的発言や日本人しかいないことを前提とした会話や事業、ミスや考え方を特定のルーツに結びつけた評価なども含む。上司から部下への関係だけでなく部下から上司、顧客から従業員などあらゆる関係性で起こりうる。】

 ある企業コンサルタントのホームページでは「職場のダイバーシティ(多様性)マネジメントが進むにつれ、日本企業がこれまで経験したことのない事態が現れてきた。『レイシャルハラスメント』だ」としてそれに対する対策を促している。関西学院大学の金明秀教授によると、「レイハラ」はアメリカでは「セクハラ」と並んで、就業環境を害する言動としてしばしば損害賠償命令が出されていること、深刻な人種的差別が発生してもそれが放置された場合、あるいは人種差別的な状況が長期的かつ職場環境全体に蔓延している場合に、不法性が問われるという。特定の人種や民族をからかうジョークが日常的に話されているとか、ある国出身の労働者がいるときその国を誹謗するようなポスターがずっと掲示されているようなケースは、「敵対的環境」を放置したとして「レイハラ」だと認定されやすいそうだ。職場のいじめに人種的な侮蔑を用いてしまえば、それも環境型の「レイハラ」である。

 日本では確かに「レイハラ」に対する認識は希薄だ。外国人労働者が増加し、2000年代になって、「ヘイトスピーチ」「ヘイトデモ」が社会を席巻するようになってから、ようやく意識され始めたのではないか。しかし、いわゆる「レイハラ」は今にはじまったわけではない。先ほどの企業コンサルタントが「日本企業がこれまでに経験したことがない事態」と言っていたが大間違いだ。過去、KMJが取り組んできた企業・団体・学校などにおける「レイハラ」事件は数多くある。ただ多くは表沙汰にならなかっただけで、ほとんどは当事者が泣き寝入りし、もみ消されてきただけである。

 「ヘイトスピーチ」は日本社会に潜在化している在日にたいする差別意識を顕在化した。そして「ヘイトスピーチ」の行為者がクローズアップされ、対策法もできた。今後、企業・団体・学校内などでの人種差別的・排外的発言や行為を顕在化させるために、「レイハラ」という言葉をもって、個々の事象を再定義して、捉えなおしていくことが、社会に差別の存在を周知し、解消するための一つの方法として有効になるかも知れないと考える。