スポーツと民族・人種差別 - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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スポーツと民族・人種差別

【投稿日】2020年7月29日(水)

 5月2日、アメリカのミネアポリスで起きた黒人男性ジョージ・フロイドさんに対する白人警官による絞殺事件以後、全米各地で広まった抗議集会やデモはパリをはじめ全世界に拡がりつつある。東京ではクルド人男性が職務質問のあげく、警官の暴力により負傷させられた事件にたいして抗議のデモがおきている。

 ことの本質は人の皮膚の違いによる差別というよりも、長年の植民地政策下で培われた差別意識がもたらした官憲の意識の集積の結果と言うべきだろう。このデモ参加者たちはそのことを確実に知った。

 抗議活動が広がっているイギリスのブリストルでは、17世紀にアメリカ大陸へ10万人の西アフリカの奴隷を輸送した奴隷商人であるエドワード・コルストンの記念碑が壊され、近くのエイボン川に投げ捨てられた。

 アメリカでは、南部連合の軍司令官を務めたロバート・エドワード・リー将軍像をはじめとする彫像が、抗議デモの対象となり、撤去されることとなった。次の矛先はコロンブスや果ては奴隷所有者であった初代のワシントン大統領にも向かうだろう。南北戦争の終結に際してあいまいな結果しかもたらさなかったリンカーン大統領の評価は今のままでよいのか。世界の歴史の見直しが必要だろう。

 ひるがえって日本の場合はどうか。中国大陸や朝鮮半島の植民地支配と軍事占領下の数々の蛮行の歴史の清算は今のままでよいのか。帝国主義戦争をはじめ、それに加担した者たちの責任は今のままでよいのか。戦後に紙幣の表面に登場していた人物たちの再評価も問われなければならない。そのひとりは福沢諭吉である。彼は明治日本の将来はアジアへの侵略しかない、と考えて『脱亜論』を書き、その手始めとして日本留学中の金玉均をそそのかして朝鮮でクーデターを画策した。それは見事に失敗したが初代総理の伊藤博文は朝鮮植民地化を完遂するために1905年に朝鮮統監に就任した。また後に国際連盟の事務次長の職につく新渡戸稲造は「韓国併合」の1910年の時、旧制第一高等学校の校長だったが、入学式で新入生に「日本の領土拡大をよろこべ」と演説した。これらの人物の言動が日本の近代の進路を大きく誤らせたことは明白であろう。

 ついでにいえば、世界で活躍中のアスリートたちも続々とこれらの集会やデモの賛同のメッセージを送っている。米大リーグの大谷選手、スケートボードの選手堀米、テニスの大坂選手、バスケットの八村選手たちだ。国内ではプロ野球の楽天のオコエ選手みずから被差別体験をツイッターに投稿しているという。(毎日新聞)

 ところで政府は、2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催をいまなお画策している。これは日本経済の浮揚策として必要不可欠だというが果たしてそうか。それはともかく、忘れてはならないことがある。それは1936年のベルリン大会にマラソンの日本代表として出場して優勝した孫基禎さんのことである。当時の日本の新聞は胸に日の丸を縫い付けた彼の写真を掲載したが、彼が朝鮮人であることは一切報じなかった。一方、ソウルの『東亜日報』はその写真の日の丸の部分を黒く塗りつぶして発行し、無期限の発行停止処分をくらった。当時、朝鮮は植民地支配下にあり、創氏改名をまもなく強制される状況にあった。そして今も日本のマスコミは帝国主義支配の表現としての「支配」を「統治下」という用語を用いて平然としている。(理事長 仲尾宏)