大阪府の「在日外国人施策に関する指針」改訂についてのパブリックコメント - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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大阪府の「在日外国人施策に関する指針」改訂についてのパブリックコメント

【投稿日】2023年1月4日(水)

KMJは大阪府の「在日外国人施策に関する指針」が改訂されることをうけ、昨年12月29日にパブリックコメントを提出しました。

 

「在日外国人施策に関する指針」の今改訂についてパブリックコメントを提出する。

 当センターは郵便外務職の国籍条項撤廃運動を契機に、1984年に市民運動家や研究者が集い、日本でいち早くこの大阪の地を中心に、在日コリアンの人権にかかわる啓発・研究に取り組んできた団体である(当時、KMJ研究センター)。1999年には大阪府教育委員会認可の下、在日コリアンをはじめとする在日外国人の人権にかかわる啓発・研究をおこなう団体としては、日本で初めての社団法人格を得た(当時、社団法人大阪国際理解教育研究センター)。2008年からの公益法人改革により、現在は一般社団法人としてその活動を継続している。

 さて、大阪府における在日外国人施策の軸は、日本の朝鮮植民地支配の結果としての形成過程をもち、その後、過酷な民族差別に晒されてきた在日コリアンの人権問題であったはずである。それは長年の大阪府と在日コリアン当事者達との協働によって積み重ねられてきた社会的財産であった。しかし、今改訂案では、在日コリアンの人権問題にかかわる記述が大幅に削除されようとしている。このような行為は、在日コリアン当事者たちとこれまで築いてきた信頼関係を、一方的に踏みにじるものとして、到底看過できない。

 特に懸念するのは、大阪府の在日コリアン形成過程における歴史認識の問題である。現指針においては、注釈ではあるが「過去の植民地支配により、多数の朝鮮の人々が日本に来ることを余儀なくされ、その多くの人々が軍需産業や建設作業などに従事させられた。今日の在日韓国・朝鮮人の多くは、戦後帰国できず、日本にとどまることになった人々とその子孫」と明記している。しかし、今改訂案ではこの文書が削除・改訂されてしまっている。新聞報道では、大阪府の三ツ石浩幸・人権局長が「歴史認識には様々な見解があり、今の注釈が書き過ぎているのは事実なので、記載しなかった」と発言されたようだ。しかしその発言は、在日コリアンの特殊な歴史性を否定するものとして、到底容認できない。大阪府は、昨今、日本社会を覆い尽くす「歴史修正主義」に加担するつもりなのか?その「歴史修正主義」がさまざまなヘイトスピーチを生み出しているのは言うまでもない。今改訂案で、大阪府はヘイトスピーチをさらに拡大するつもりなのであろうか?

 在日コリアンの人権課題は、すべての在日外国人問題の原点であり、その克服がなければ、民族差別は連鎖するという認識を持つべきである。例えば、未だに本名を名乗れない在日コリアンが多く存在することが、在日ベトナム人をはじめとするその他の外国人にも影響を及ぼしている。本名ではなく、日本名を使用するベトナム人2世が増えていることを大阪府は把握しているはずである。原点の問題を克服しない限り、差別は延々と連鎖していくのである。今改訂案では、その原点を断ち切ろうとしている。これでは、差別の克服などできるはずはない。

 また、今改訂案では、世界人権宣言や国連のさまざまな人権規約を重視している。そうであるならば、なぜ在日コリアンの歴史性や人権課題を削除するのか。2022年11月、国連の自由権規約委員会が日本政府にたいして示した総括所見で、「植民地時代から日本に居住している一部の在日コリアンとその子孫」は「国家的または民族的少数派として認識されるべき人々」であるにもかかわらず、「社会保障制度や政治的権利の行使から排除されるという結果をもたらしているとされる差別的な政策運用」にたいして懸念が示された。大阪府が国連の人権諸条約を重視するのであれば、当然、在日コリアンの人権課題を指針の中心に添えなければならないはずである。今改訂案は、国連の指針にも反するものであると言わざるを得ない。

 このような認識の下で改訂される指針では、とても在日コリアンをはじめとする在日外国人の人権状況が改善されるとは思えない。したがって、今改訂が、真の多民族・多文化共生社会を築く礎になることを願い、以下について改善を要請する。

 1.在日コリアン形成の歴史を少なくとも現指針の通りに記載するべきである。

 2.在日コリアンの人権課題があらゆる在日外国人問題の原点であることを再度認識し、そのことを記載すべきである。

 3.在日コリアン高齢者の福祉サービスにおける課題は、今も同様に存在する。今後、その他の外国人の高齢化問題にも繋がることから、現指針の記載通りに、その課題
  について記載するべきである。
 4.大阪府が1998年に策定した「在日韓国・朝鮮人問題にかんする指導指針」を活かすべきである。さらに、在日コリアンは世代を重ね、多様化する中で、日本国籍
  者が増加している。その状況を鑑みて、「国籍」だけでなく「ルーツ」を大切にできる教育を積極的に進めるための方策を定めるべきである。ヘイトスピーチは「国
  籍」だけでなく、「ルーツ」も攻撃していることは大阪府も承知のはずである。 

                                                                  以上